横浜のジャズ喫茶店

昨年の話になるが横浜駅の近くのジャズ喫茶店を探したことがある。その一つがちぐさと言う、かなり古くから横浜にある喫茶店だった。(後に調べて判ったことだが、昭和8年の創業で昭和20年の横浜大空襲で店舗及び6000枚以上のレコードを消失。昭和23年に店の常連やジャズメンより千数百枚のレコードを手に入れ再開する。平成6年に前オーナーが亡くなりその後オーナの妹により営業が引き継がれたが平成19年に惜しまれつつ長い歴史の幕を閉じる。平成24年3月に有志により保管してあったオーディオ器材やレコードを持ち寄り、営業再開し現在に至っている。創業84年、現存する日本最古のジャズ喫茶店)。 お店は横浜の野毛地区にあり直に見つかった。店に入ると正面に大きなスピーカーが備えられており明らかにオリジナル品と分かる。プリアンプもパワーアンプもビクター社のエンジニアリングの高橋さんの製作による特注品との事。パネルにちぐさの名が刻んであった。プレーヤーはテクニクスのSP25他。

椅子はスピーカーに対面して座るように配列しており純粋にジャズを楽しむように配慮されていた。昼下がりの時間帯で常連客らしき人が3人いてコーヒーを注文すると500円と安め。

鳴っている音は音量控えめで非常に優しく刺激的な音は一切聞えてこない。これならクラッシク曲も鳴らせそう。しばらく音楽に酔いしれているとマスターらしき人が分厚いメニューを重そうに持って私のテーブルに来た。ワインか何かののメニュー表かなと思って開いてみると英語でレコードの名前がびっしり並んでいる。何かなと思って聞くとリクエストブックだと言う。この中から片面だけをリクエストして良いとの事。常連客のいる中で一見さんの私を選ぶなんて、流石にお目が高いと感激し、ぱらぱらとめくったが面倒くさくなったのでシェリーマンの2.3.4のA面を頼む。この曲は自宅で何回も聴いているのでこの特注の装置でどんな音が出てくるのかなと期待する。やがて出てきた音は上品で柔らかくシェリーマンのドラムはしっとりとしていて普段家で聴いている乾いた音とは違う。エデーコスターのバイブはこんな柔らかな優しい音だったかなー。ちょっと物足りない音のような気がしたが、これなら何時間聴いても疲れないと思った。

お客は誰も席を立とうともせず、静かに聴いている。やがて1人が帰った後に入れ替わり次の客が座った。先ほどのマスターらしき人が注文と同時にリクエストブックを見せているではないか。私だけでなく全員にリクエストを聞いていると判った。私だけ特別扱いする訳が無いよね。

しばらく粘っていたが夕方になってきたのでこの近くにあるもう一軒の店、アドリブへ向かう。ここも直に見つかり雑然とした狭い階段を2階へ上がっていったがお店は閉まっていた。がっかりして階段を下りるとオーナーが無愛想に「何か用かい」と2階から声を掛けてきた。

「今日は休みなの」と聞くと「7時からだ」と返事。7時まで待てないので諦めて東京へ向かう。

大都会の横浜にはまだまだ沢山のジャズ喫茶店はあると思うが、今回現存する最古のジャズ喫茶店にめぐり合えたのは幸運だった。     人生黄昏

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ちょうどシェリーマンのLPが掛かっている時
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ちぐさの外観

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